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フェイワイルド(“妖精界”の名でも知られる)は、定命の領域の双子にあたる、緑あふれる野性的な世界である。1,000リーグ(約5,000km)にわたって広がる、丈高く聳える森の木々。非の打ち所ない優美さをそなえた雲海の中に高く聳える穢れなき峰々。その頂きの合間を縫うように走る、完璧な琥珀色をした大草原。エメラルドとターコイズと翡翠の色をした海と、果てしなく続く砂浜に打ち寄せる波。空は定命の世界では決して見られない完璧な青.しかし、ひとたび嵐となれば、荒れ狂う風とともに炭のように黒い積乱雲が湧き起こり、激流のごとき雨が降る。この世界では、秘術のパワーがあまねく木々と岩の中に織り込まれている。すべての存在が魔法を宿しているのだ。 フェイワイルドの原住クリーチャーは.謎めいたエラドリン、意地悪なハグ、野生的なドライアドや専政的なフォモールに至るまで.すべてがこの次元界に満ちる神秘のエネルギーを帯びている。その力に祝福される者もいれば、その力によって歪められてしまう者もいる。この次元界の大地がそうであるように、その住民である彼らもまた両極端に走る傾向がある。善属性のフェイは気高く公正な、自然界と彼らが庇護を与えることにした定命の存在たちの守護者である。悪属性のフェイは暗い衝動に突き動かされるままに血と爪と激情ですべてを解決しようとする。フェイワイルドのクリーチャーは、親切なものも、残酷なものも、高貴なものも、怪物的なものも、野蛮なものも.そして同時にそのすべてであることも.ありえるのだ。
この章では、フェイワイルドを以下のような側面から掘り下げて行く:フェイワイルドへの旅
そは妖精の世界、すべてに美と.死を呼ぶ危険の宿りしところなり
エラドリンの賢者たちの一部が主張するところによれば、フェイワイルドは自然世界そのものが見ている夢なのだという。フェイワイルドには自然世界と見分けがつかないほど似ている点が多い。しかし、夢と同様、見慣れたものを印象強く写し取っているが故に、フェイワイルドは危険な場所なのである。フェイワイルドの地理は、大まかにではあるが定命の領域の地理に対応している。自然世界に存在する山々や河川、海はフェイワイルドにも存在する。ただし特定の場所の間の距離は.そしてその特定の場所の様子は.フェイワイルドと自然世界とで異なっていることが多い。 定命の存在がこの危険な領域に来るのは、荒々しい自然の中を目に見えない川のごとく流れる秘術のパワーを利用するためである。また、エラドリンと交渉して秘密の知識を得ようとする者もいれば、気まぐれで定命の世界の無辜の民に非道を働くフェイを成敗しようとやって来る者もいる。他にも、ドラウとの戦争の際に崩れ去り放棄された水晶の都にいまだ埋もれている魔法のアーティファクトを求めて来る者もいる。気が遠くなるほど深い森、やむことのない嵐の吹き荒れる海、雲をかぶった花崗岩の峰々。生き残るための勇気と知恵を持つ者にとって、フェイワイルドは数え切れない謎を秘めたところなのである。
フェイワイルドへの行きかた
偶然に辿り着いてしまうことが取り立てて珍しいことでない次元界というのはフェイワイルドくらいのものである。妖精の渡わたせ瀬.フェイワイルドと定命の世界の境界が希薄になっている場所.は、森の中の空き地や、霧の渦巻く丘の麓など、世界中の自然の色濃い場所に眠っている。一年に一度の悪日に妖精の渡瀬に踏み込んだり、一日に一度の最悪の瞬間に妖精の世界へ迷い込んでしまう定命の存在は少なくない。 何世紀にも渡り、エラドリン(や他のクリーチャー)は、自然発生した妖精の渡瀬に手を加え、フェイワイルドと“世界”を結ぶ安定したポータルを数多く作り出してきた。こうしたポータルは古代の列石や、古のルーンがびっしりと刻まれた膝ほどの高さのオベリスク、意図的な配置で植えられた木々、あるいは輪の形に生えたキノコの群生といった目印がついている。妖精の渡瀬には、2本のメンヒル(列石)の合間の狭いアーチのような小さいものもあれば、都市ほどもある森の広場のような大きいものもある。こうした場所の多くは放棄され無人になっている。魔法は深い眠りについており、条件が合致した時や、渡瀬を蘇らせる古のエルフの言葉を唱えた時にのみ目を覚ます。
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フェイワイルド探訪
フェイワイルドを旅する者がまず最初にすべきことは、この次元界の野放図な植生と峻険な地形に立ち向かう覚悟を固めることである。この次元界には標識の立てられた道などほとんどないし、そもそも道自体の数が少ない。 幸運な冒険者たちが川を見つけ、それに沿って旅をすることにしたとしよう。やがて彼らは自分たちが落差1マイルもある巨大な滝の上にいたことに気付く。つるつるとした滑りやすい石の崖を降りていくうち、冒険者たちは滝からの水飛沫で夏の夕立にでも遭ったかのように全身ずぶ濡れになってしまう。さらに旅を続けてハグの沼地に渦巻く硫黄臭い霧に咳き込む頃には、牧歌的な自然の楽園に迷い込んだなどという幻想は木っ端微塵に消し飛んでしまっているだろう。 地理学の知識はフェイワイルドでは当てにならず、むしろなまじ知識があると余計な厄介事が増えるだけである。先に述べた通り、フェイワイルドの地理は定命の世界の地理を反映している。フェイワイルドに自然に存在する陸標(旅人の目印になる特徴的な地形や樹木、建物など)は、物質界に存在する対応した陸標の特徴を激しく誇張したものになっていることが多いのだ。山々の峰はより高く、より切り立った、より峻険なものになる。人間の世界を蛇行しながらゆったりと流れていた河川は、フェイワイルドでは轟く激流になっていたりする。海辺には沖合で吹き荒れる常軌を逸した大嵐により生じた荒波が打ち寄せる。 定命の世界に存在する人工的な陸標、たとえば都市などは、フェイワイルドではただの狩人の野営地であったり、森の中にある小さな空き地であったりする。さらに呆れたことに、フェイワイルドにおいては特定地点間の距離が、どちらの方向に向かって移動するかによって変化することさえある。アエドンニにあるエラドリンの前哨基地から兎穴評議会に旅する場合より、兎穴評議会からアエドンニに旅した場合の方が3日早く着く。いったい何がどうなってこの差が出るのかは、誰にもまったく説明がつかない。
フェイワイルドの住人たち
フェイワイルドが誕生したばかりの頃、原初の森には荒ぶる魔法が渦巻いていた。これによって数え切れないほど多くの獣が生まれ、その獣たちは住んでいる自然環境の延長とでもいうべき力を授かった。諸神格の中には、この絢爛たる輝きに満ちた場所こそ自分の被造物を住まわせるに相応しいと考えた者もいたため、この永久の緑の蔭の下は定命のクリーチャーたちの幻想的な変種が自由に暮らすところとなった。妖精界にはどうしようもないほど愚鈍な獣は滅多にいない。ほとんどのクリーチャーは、ある程度の知性のきらめきのようなものを持っているのだ.たとえそれが悪辣な狡知に過ぎなかったとしても。 知性ある種族は全力を傾けてフェイワイルドを自らの意志に屈服させようと試みてきた。フェイワイルドを支配しようという試みを競い合っていたのは主に、輝ける都に住むエラドリンと、地底の要塞に棲むフォモールである。他の種族は両種族の抗争の隅の方でひっそりと暗躍しており、また、何をしでかすかわからないフェイの気質のせいで勢力バランスは常に流動的である。妖精界の政治に関わる際に、確実にいえることはただ1つ:真実に思えるものの半分は真実ではない。
アーチフェイ
フェイという精霊の中で最も強力な者たちは、己の選んだ自然の一面に関して神の化身のごとき力を持つ。ノーブル・エラドリンの中で格別に古く力ある者たち、たとえば“夏の女王”ティアンドラや“霜の大公”などは、定命の枠を超越した存在となっている。こうした存在の中には、“緑の君”オランや、同名の川の守護精霊であるスカマンデルのように、大いなる森や山や河川の精霊が覚醒したものもいる。他にも、“猫の主”や“猿の王”のように、さまざまな動物の知性ある化身たちもいる。また、これら以外の種族のフェイが、長い長い時を経て強大な力を手にしてアーチフェイとなったものもいる(ハグのバーバ・ヤガーや、サテュロスの公王ヒルサムのように)。アーチフェイには神格どころかデーモン・ロード程度の強さの者さえほとんどいないが、自分の料地の中にいる時の彼らに勝てる存在は滅多にいない。
エラドリン
エラドリンはフェイワイルドの“住人”である。彼らの都市には周囲を睥睨する優美な水晶の塔が建ち並び、それでいてその土地の地形に違和感なくとけこんでいる。これらの都市はすべてドラウとの戦争の前に築かれたもので、その戦いの間に多くの都が荒廃していった。エラドリンは数千年の静かなる歴史が積み重なった、古の通廊や街路を歩んでいる。非常に穿った見方をすれば、彼らは自らの都市に幽霊のごとく呪縛されてしまっているのだともいえる。エラドリンがこうした崩壊した巨大都市を本当の意味で再建しようとする試みは、最近始まったばかりだ。修復と再定住のはかどり具合は地域によってまちまちである。アストラザリアンの尖塔群は往時よりもさらに高く聳え立っているが、ケンドリアネは哀愁漂う廃墟のままである。
ゴブリン
ゴブリンはフェイではないが、我慢強く繁殖が早い彼らはフェイワイルドの片隅の荒れ地にうまく棲み着いている。この数世紀で、定命の世界からやってきたゴブリンの軍勢がフェイワイルド各地に多数の城塞を築いた。そこにできた王国はほとんど長続きすることはなかったが、滅んだ王国の生き残りは血に飢えた山賊部族として数世代を生き抜き、その山賊たちはやがて縄張りを広げていくうち再び元通りのゴブリン王国が出来上がる。現在、性質の悪いゴブリンの諸侯がフェイワイルドの暗い影の中に跳梁している。彼らは凶暴な軍隊の攻撃距離内を通る者すべてを脅かしている。
ノーム
ノームはフェイワイルドにおいて、文字通り“中間的立場”にいる。彼らはエラドリンの塔とフォモールの地下要塞の狭間にある丘や森に兎穴と呼ばれる家を造るからだ。兎穴は木の根の合間にあり、巧妙な幻術で隠されている。冒険者たちはしばしば居住地の公共広場に迷い込んでいながら、そのことにまるで気付かず通り過ぎてしまうことがあり、ノームたちの物笑いの種となっている。 何世紀もの間、ノームは荒野の只中で兎穴ごとに生き抜いてきた。フォモールの勢力拡大とともに、兎穴評議会は各地の共同体の間で何らかの協力体制を敷く必要性を認識した。しかしながら、ノームはトリックスター(悪戯者).すなわち自力本願で、生まれながらに胡散臭さを漂わせた種族である。優れた統治機構など、必要とされてはいなかった。連合体を具体的にどう機能させるのかという点からしてあやふやで、なかなか決まらなかった。
フィルボルグ
フィルボルグ(「袋を持つ者たち」の意)は夜行性の狩人であり、彼らの中で最も偉大な者は“荒ぶる狩の主”と呼ばれる。容赦なく敵と獲物を追い詰める彼らが最も好んで狩るのは知的クリーチャー、とりわけフィルボルグの土地への侵入者たちだ。フィルボルグの狩りは必ずしも獲物の死で終わるわけではない。彼らにとっては狩りという行為そのものが重要な意味を持っているのだ。
フォモール
フェイワイルドの瑞々しい緑の丘の地下には、定命の世界のアンダーダークが妖精界に投影されたもの.フェイダークが広がっている。この暗黒のトンネルと神秘的な洞窟群からなる恐怖の迷路には、フォモールとして知られる奇形の巨人族が絶対的独裁統治の敷かれた広大な地下王国を築いている。フォモールは怪物的な魔法の力を持っている。フェイワイルドであろうと、定命の世界であろうと、彼らに抗し得る者はほとんどいない。同族同士の反目を棚上げにすることができたなら、フォモールは強大な征服者となりえただろう。しかし幸運なことに、そのような恐るべき事態が実現することはまずありえない。彼らのほとんどは非フォモール種族の大部分と同じくらいに同族を忌み嫌っているからだ。この欠点がフォモールの持つ強力な秘術のパワーの直接的な副次効果として生じたものであることは皮肉である。この怪物たちが操る魔の力は、決して止むことのない苦痛で彼ら自身を責め苛み、そのために彼らはゆっくりと狂気に冒されていくのだ。