若くあかるい歌声に……『狂気山脈』


南極がまだ人類未踏の大地だった時……その内陸に何があるのか、あるものは探検失敗し、あるものは極点を超え大陸横断をはたし……そんな発見の時代にかかれたH.P.ラブクラフトの小説『狂気の山脈にて』を題材とした協力型パーティーゲームが
狂気山脈
です。

探索隊一行は、前人未到の南極内陸にある高山の踏破を目指しますが、そこで発見したのは数億年前の都市であり、そこで見て、知ってしまったものとは……!


というお話。

こんな感じのゲームだ。

さて。

内容物は豪華……きっちり収納。

プレイヤーはこの狂気山脈にいどむメンバーの一人となります。

裏表はリバーシブルで、
男女が変わります。

手札はプレイ人数によって枚数が違うのですが、
『物資』
『道具』
『武器』
『書物』

の4つのカテゴリーがあり、それぞれ2~6の数値が書かれています。

なお、途中見つけることができる(かもしれない)太古のアイテムは数値10!

探検するルートはマップ上に裏向きにおかれたタイルであらわされており、ここをのぼり、脱出するまでが冒険となります。

「人」がまだ足を踏み入れていない山脈が君たちの前にそびえたつ……

パーティーの位置をあらわすのはこの飛行機コマ……Ju52!

各タイルはタスクがいくつか書かれており、アイコンで描かれたジャンルごとに、その要件を満たす点数分のカードがプレイされるとタスク成功、満たされていないとタスク失敗となります。

成功の報酬はいくつかあり、勝敗にかかわる探検の成果は『遺物』とよばれ、知識や、遺跡や、標本などがあります(下の写真は「標本A」)。

他にも隣りのタイルを見れる「調査」、「太古のアイテム」、負傷カードを山札に戻せる「回復」があります。


『負傷』は最初捨て札にプレイ人数分だけ捨てられており、山札がリシャッフルされることでプレイヤーが引く可能性がある「ゴミ札」であり、この負傷の山が無くなると敗北となります。
また、成功の度合いは「遺物の枚数」-「負傷の枚数」で決まり、0未満だと脱出しても敗北となります。

もうひとつ、管理しなくてはならないのが犬ぞりボードとその上のリーダーシップ・トークン。

リーダーシップ・トークンは様々な使い方があるのですが、一番重要なのは山札が尽きたとき 。
カードをリシャッフルする 《休息》を選ぶ場合、1枚ゲームから取り除いてやる必要があるのです!
これも尽きてしまった場合、探険パーティーは不信のあまり分裂して、生還できないことになります。


ゲームの流れは;

  1. 登山ルートを決め(相談可能)……
  2. 行った先のタイルをめくってタスクを確認し(砂時計計測開始)、相談して(手札の中身を見せることはできないが、このタイミングで話すことが可能)全員が出すカードを決めて裏向きに好きな枚数プレイし……
  3. タスクごとにクリアできているかチェックして、成功が1つでもあれば報酬を受け取り、失敗があれば失敗の処理をその数だけして……
  4. カードを手札上限枚数まで引いて……
  5. ここで《休息》を選ぶことで、捨て札と山札をシャッフルして新たな山札にし、捨てられていたリーダーシップトークンの山も回復できます(ただし、リーダーシップトークン1個を箱に戻す必要があります……リーダーシップトークンは6枚しかありません!)。

と、このようにとてもカンタンな流れ。
負傷と、リーダーシップを管理して、脱出なんて簡単、なリソース管理!

しかし
此処は狂気山脈……高度も高いため空気は薄く、また奇妙な出来事にパーティーメンバーの精神もむしばまれているのです!

具体的に言えば、プレイ開始時に、5人プレイの場合だと全員軽くLV1の狂気カード1枚ずつ程度に狂ってる。

ある人は五七五調でしか話せなくなり、
ある人は歌いながら話すようになり、
ある人は叫び声をあげながら話し、
ある人はテーブルの下に潜む何かに気を取られ、
ある人は親指を使えなくなる……


ほら、雪山で急に「暑い、暑い!」と言って服を脱ぎ始めちゃう的な?

そして、この狂気カードの内容は、プレイ中自分以外には見せることができないのです!
狂気カードはゲームの流れの3番目……相談フェイズに発動し、その相談を阻害することになります
しかも、相談時間は30秒しかありませんので、まともに相談できるはずもなくなるのです!
一番大事な、「誰がどのカードを出すのか」という部分が……まともなやつがいないばかりに……
「タスクは物資が7-9、道具が8-10なので、だれか出せる?」
「私が武器6出します!」
「では私が5を出せばクリアですね!」
「僕が道具の2と4を出すよ!」
「待って、こっちは道具6しかない!」

みたいな会話がまともに進まないことに!

「タスクは物資が7-9、道具が8-10なので、だれか出せる?」
「わたしなら、ぶきろくだったら、だせますよ」
では!! 私が!! 5を出せば!! クリア!! ですね!」(うるさい)
「僕が~♪ 道具の~♪ 2と4~を出すよ~♪」(小坂明子「あなた」の節で)
「待って、こっちは道具6しかない!」(ポトリ)
(((プレイしちゃった)))
ガサゴソ……(机の下チェック)無言でカードを出す。


物資は9でクリア、道具は13で失敗!

そして、たとえタスクに成功しても、得点となる『遺物』を受け取ったプレイヤーは狂気レベルが1高い狂気カードを受け取ることになります(前のレベルは捨てられます)。

レベル2の狂気は端的に言って狂ってる……あやしげなロールプレイが要求される。

レベル3の狂気はもう、これはダメだろう……

さらに、タスクに失敗した場合はその数だけ
1)狂気を受け取るか(リーダーが誰にあげるか決める)、
2)ダイスをふるか:

ダイスの結果はろくなことがない。
『事故』は負傷2枚を捨て札置場に送る(つまり、カードを引くときに引く可能性が出る上に、負傷カードの山が尽きたら敗北)、『混乱』はその失敗の数値の差だけ山札から捨て札にする(リシャッフルする機会が多くなる)、『不信』はリーダーシップトークン2枚を捨て札にする……『混乱』と『不信』は枚数が足りない場合はリーダーシップトークン1枚を箱に戻さなくてはなりません(これが無くなっても負け)!


リーダーシップトークンを使えば、1人の狂気をこのターンだけ無視する(「しっかりするんだ!」)、相談時間を延長する、ダイスを振り直す、引くカードの枚数を増やすなどもできますが、これまたリーダーシップトークンを再び山に戻すために休息するタイミングが早くなってしまいます……
加えて言うと、『遺物』ではその他のペナルティであるトークン使用制限や、カードプレイ時の制限、休憩制限も受けるのでますます辛くなる

このように、ゲームとしての難しさや楽しさを、「コミュニケーションを取る」部分に落とし込んだパーティーゲームとなっており、かつ相談フェイズ以外はまじめに「負傷カードの枚数が……」とか「山札はあと2ターンで尽きるのでここで回復したい……」などまじめなリソース管理協力型ゲームの側面も見せる感じ。

あと、協力型ゲームで毎回出てくるいわゆる奉行問題ですが、相談時間に時間制限があり、そもそもそのコミニュケーションが狂気によりまともにできないというテーマに沿った制限で払拭されている点は特筆もの。
ちなみに、上に行けばいくほどタスクは厳しいものとなり、コミニュケーションを阻害する要素も増えていきます。


軽めのパーティーゲームを探していたり、協力型ゲームが好きな方にはもちろんおすすめですが、狂気のロールプレイと言う点で、ボードゲームに慣れ親しんでいないクトゥルフRPGのプレイヤーの方には特にお勧めいたします。

狂気山脈
プレイ人数:3-5人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60分
製作:Iello
デザイン:ロブ・ダヴィオー
価格:5,000円+税