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  • 『覇界王~ガオガイガー対ベターマン~』米たにヨシトモ監督×田中公平氏(音楽)対談

    田中「曲と歌手の出会いの中でも、『勇者王誕生!』と遠藤さんは奇跡的です」
    米たに「新たな『覇界王』ファンの方々も、色々な視点から楽しんでください」

    ――『勇者王誕生!-御伽噺(ジュブナイル)ヴァージョン-』は、やはり『ガオガイガー』には「勇者王誕生!」しかない、というお気持ちからでしょうか。

    • 米たに:完全新曲を田中公平さんにお願いする案もあったのですが、予算や日程の問題、何よりいきなり誰も知らない新曲を出すよりは馴染みのある箇所から攻めていくべきだろう、その中でクロスオーバーとしての新しさを出せれば、という判断となりました。今まで「勇者王誕生!」はアレンジやバージョンが幾つもあって、今回は『FINAL』のバックコーラスを全部盛りにしたような「お祭り感」を意識して構成書を作りました。

      田中:2005年に『ガ王~勇者王誕生!10連発!!~』という、バリエーションを含めた「勇者王誕生!」だけが延々入っているアルバムが発売されまして、あの時点で遠藤正明さんは「そろそろ止めましょう」と言っていたんですよ。最初のバージョンは完璧に覚えているのに、後から新しいバージョンがどんどん追加されてくるから間違えてしまうと。ライブの後に必ずファンの方から突っ込まれるので、僕も聞いたら「公平さんと米たに監督のせいです」と(笑)。

    ――遠藤正明さんのレコーディングはいかがでしたか?

    米たに:本当に20年以上経ったのかと思うほど、TVシリーズ当時のままの若々しさですね。

    田中:歌唱力の高さもですが、水木一郎さんもささきいさおさんもアニソン歌手の方々はまったく声が衰えませんね。堀江美都子さんなんて今でも『花の子ルンルン』を歌った当時のイメージのままです。遠藤さんもその中の一人で、偉いものです。

    米たに:水木一郎さんや堀江美都子さんには『ザ☆ドラえもんズ』の歌をレコーディングしてもらいましたが、別の意味でキレッキレでした。遠藤さんのレコーディングも、あのお二人とタイプは違えど、目指していた理想と寸分違わないものが仕上がっています。

    • 田中:世間にある歌はほぼ曲が先に作られますが、「勇者王誕生!」は歌詞から先に生まれています。20年以上前に初めて見た時は、整えてもまだ100以上の「ガ」が入っていて「どれだけ言うんだ」と驚きました。家の防音室のピアノで作曲していたら妻から「ガーガーうるさい!」と怒られ、それでも続けていたら「そんなの売れる訳無い!」と怒鳴られ、ヒットを報告したら「世の中おかしい」と(笑)。今や僕の代表作ですし、全てはあの歌詞があればこそです。
      バリエーションを10回も作ったら普通の歌なら飽きるところが、この曲は全然飽きない。それほど歌詞も曲も突き抜けたオリジナリティに溢れています。AメロとBメロで7回ぐらい転調しているし、最後に1オクターブ駆け上がるなんて誰も作っていません。作曲した本人も「これは誰も歌えまい、万が一のときは自分で歌おう」と思ったら、音楽ディレクターの佐々木史朗(現・(株)フライングドッグ代表取締役社長)さんが連れてきてくれたのが遠藤さんでした。

      米たに:他にも何人か候補を挙げていただきましたが、「遠藤さんならいける」と感じたんですよ。あの時の自分の判断が遠藤さんの運命を変えてしまいました(笑)。

      田中:『ONE PIECE』の初代OP「ウィーアー!」を歌ったきだたにひろしさんも、最初は仮歌ご担当の予定が「これはいい」とそのまま採用になりましたし、他にも『ジョジョの奇妙な冒険』(2014年版)の富永TOMMY弘明さん、『OVERMANキングゲイナー』の福山芳樹さんのように、困った時に救世主のような歌手と巡り合う奇跡は何回かありました。その中でも特に「勇者王誕生!」は遠藤さんしか考えられませんし、彼も自分の代表曲と言ってくれていますから、嬉しいです。

    ――『ガオガイガー』と『ベターマン』、どちらの作品も非常に長く愛される作品になりましたが、根強い人気の理由をどのように考えられますか?

    田中:どちらの作品も深い設定まで作り込まれたSF作品ですよね。改めて観ると、理念や思想の部分まで掘り下げた脚本が書かれていると思います。世間一般には軽佻浮薄な方がウケる風潮もありますが、こういう深く重いSFが大好きな層は必ず居て、その方々が20年以上ずっとこの作品に心を寄せてくれている。そこが素晴らしいと思います。

    米たに:ジャンルとしてはSFでも、娯楽として観ている人が楽しめるようにアレンジは入れています。硬派なSFは難解すぎて敷居が高く感じられがちですから、楽しさプラス爽快感があった方が良いかなとは当時から意識しました。

    田中:ヘル・アンド・ヘヴンほどインパクトのある必殺技は他に見ませんね。

    米たに: BGMも盛り上げてくれますからね。

    田中:この絵に負けない曲を作らなきゃ、という相乗作用です。『勇者王誕生!』の歌詞にある「ディバイディングドライバー」も、作曲の時点ではどんなものか全く解らないまま遠藤さんに叫ばせましたが、アニメ本編の中で叫ぶ檜山修之さんの「ディバイディングドライバー!」はやはり凄かった。自分が関わったアニメの中で、ヘル・アンド・ヘヴンが一番格好いい必殺技だと今でも思っています。


    ――最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。


    田中:20年前からファンでいて下さる方々には「ありがとう」の気持ちをお贈りするとともに、これからの展開もぜひ期待していてください。とにかく『ガオガイガー』『ベターマン』は『覇界王』から入った方だけでなく、全てのアニメファンに観て頂きたい作品です。こういう重く深い世界というものは、人生において必ず必要になります。特に『ベターマン』は1話から全部観直して欲しい。SF考証や科学設定なども今観ても全く古くなく、面白いです。

    米たに:長い間、日の目を見ず、もしかしたらこのままお蔵入りかと思っていた『覇界王』ですが、この歳になって主題歌をまた新録出来る事態になるとは予想もしていませんでした。新たな『覇界王』ファンの方々にも、色々な視点から楽しんで頂きたいです。新たな歌詞でをカラオケを歌ってもらってもいいですし、ファンアート的な楽しみ方でも結構です。20年間実現を諦めなかった『覇界王』という企画そのものを実例として、皆さんも人生における夢や希望を諦めずにチャレンジしてみてください。


    ※)1970年代のイギリスを中心とするロックミュージック群。シンセサイザー登場に伴って生まれた先鋭的かつ前衛的なサウンドが特徴で、構成や芸術性も重視された。


    • 【プロフィール】
      よねたに・よしとも
      1963年5月12日生まれ、東京都出身。『鎧伝サムライトルーパー』等でサンライズ作品に参加。シンエイ動画『笑ゥせぇるすまん』(1989)にて初監督を努め、『勇者王ガオガイガー』(1997)、『ベターマン』(1999)、『BRIGADOON まりんとメラン』(2000)等で独自の世界観を構築する。ほか監督作品は『Dororonえん魔くん メ~ラめら』(2011)、劇場版『TIGER & BUNNY』シリーズ(2012~2014)『食戟のソーマ』(2015~)など。

      【プロフィール】
      たなか・こうへい
      1954年2月14日生まれ、大阪府出身。小学2年生からピアノを習い始め、東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業。レコード会社の宣伝部勤務と米バークリー音楽学院への留学を経て、1980年代初頭からタイアップソングの作曲を手掛けるようになる。現在では日本を代表するアニメ音楽作曲家として広く知られる。代表作は『サクラ大戦』OP「檄!帝国華撃団」、『ONE PIECE』TVアニメ版・劇場版の各OP、『かいけつゾロリ』OP「ハッスル」など。

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原作/矢立 肇 小説原作・監修/米たにヨシトモ・竹田裕一郎 漫画/藤沢 真行 製作・編集/ホビージャパン

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